このブログでは、日本の原発問題の問題も考えているが、衆院選も落ち着いてマスコミが「あいつが悪い、こいつが悪い」などとあまり意味のない当選落選議員の断罪記事をおもしろおかしく書き始めたのでそんなのにはかかわらないようにしようと、この辺で違うテーマを選んだ。
さて、各種再生可能エネルギーの中で太陽光・風力のほかに注目され、実用化されているのがバイオマスエネルギーだ。バイオマスとは、エネルギー利用やマテリアル利用ができる程度にまとまった生物起源による物質という意味。
もともとは1920年ごろアメリカでフォードが自動車を初めて発売するとき燃料にトウモロコシから作るエタノールを想定していたことから始まる。その後トウモロコシからエタノールを作るよりガソリンの方が価格が安くなってしまったことからバイオマスエネルギーが廃れていった経緯があるのだが、ここ最近、石油など化石燃料から出る二酸化炭素排出で地球温暖化が進行しているとされていることもあって生物由来燃料が再び注目されだしてきた。
日本では平成14年ごろから新エネルギーとして国の政策的に位置づけられて、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助事業などにより各地で導入が進められている最中だ。
■ 日本の林業苦難の歴史
昭和40年代、高度成長期に急速に需要が伸びた木材の供給量を増やすため政府は外国産の木材の輸入解禁に踏み切った。
これがこの後国産材の価格の低迷を招き、大都市への人口流出、林業の主な担い手である山村部の過疎化、さらに人件費の高騰と相まって国土面積の70%をも占める森林資源が十分に活用できなくなってしまう事態となる。
政府は、下刈り、除間伐、植林に補助金を付けて林業を推進しようとしたが、高騰する人件費や運搬費のなかで日本の急斜面から高い費用と時間をかけて切り出される木材は、円高の中、輸入木材の価格ととうてい競争はできず、林業をやめてしまわない程度に国のお金で維持していくという単なるいわば慈善事業の様になってしまったのである。
実はこの状態は地球温暖化と原発問題がとりだたされるまでは最近まで続いていた。
現在日本の林業者の間では、誰もが解決不能と思っていた高くて分厚い壁に大きな風穴が開きそこから追い風が吹いてきたような状況となっている。
■ 木質バイオマス発電
私のへたくそな文章よりの動画を見た方がよくわかる。(出典:一般財団法人日本バイオマスエネルギー協会)https://youtu.be/unUveKSqRBM
木質バイオマス発電とは要は木材を燃焼させてその熱エネルギーを発電に利用するというものである。方式は2通りある。
1.木材をチップに加工し、木質燃焼用ボイラーで燃焼させて蒸気をつくり、タービンを回転させて発電機を回し発電する方式
2.木材から発酵などにより燃焼性ガスを発生させてそれでタービンを回す方式
現在は主に1.の方式が実用化され各地で実際に稼働しており、28年度の見込み発電量は114万Mwhになるという。27年度は81万Mwhだから年々伸びてきているのがわかる。(一般財団法人日本バイオマスエネルギー協会)
木質バイオマス発電所の増加によって、林業は活気を帯びてきた。
何人もの人員が山に入りチェンソーを使って人力で伐採し、索道を張って丸太を吊り下げ運搬、土場からトラックで林道を走る従来の伐採方法では、危険な上経費もかかり生産性が悪く必要量は確保できなかったが、近年パワーショベルの先端にロボットアームのような機械を取り付けて使う、「ハーベスタ」「プロセッサー」で規格通りの長さで丸太を作りそれを「フォワーダ」という機械で運搬する方法が急速に普及し、伐採効率は飛躍的に向上している。
林道さえ整備すれば少人数で広い面積の作業ができるのが特長だ。
■ 木質バイオマス発電の課題
日本は、先に述べたような機械で効率が飛躍的に向上しているとはいえ、1ヘクタール当たりの森林蓄積量に対する生産量は諸外国と比べると極めて低く、更なる林道網の整備促進などの生産効率向上努力が求められる。
諸外国と比べるといっても急峻な山地の多い日本では生産効率も落ちるのは当然と言えば当然だが、ドイツのようにIT技術を利用して立木の状態から買い手を探すようなマーケティング上の仕組みが、日本ではまだない。
従来の森林組合の原木市場を通したセリによる流通は限界を迎えており、新しいマーケティング手法を取り入れるのが喫緊の課題となっている。
もう一つ課題となるのが設備にかかる費用だ。一定の発電能力のある発電設備を十分に生かすには絶え間なく燃料が供給され続け、その稼働率を高い水準で維持しなければならないが、それがどうも十分にできておらず予想より高い水準で推移している。これも、林業の生産効率にかかる話。
さらに燃料の価格。こちらは予想より低くなっている。発電所の売電価格との整合を取ったうえでの価格となるのだろうが、製紙会社などほかの需要先とのとの競合もありこれは一概に理由を述べられない。燃料価格の低下は林業の低迷を招くことから価格は維持していく必要があるが、これには製材用材・合板材等の国内の木材需要増加や林業の機械化によるさらなる効率化が必要とされている。
いずれにしても、林業がエネルギー問題に貢献する範囲は大きくなった。林業は地域と密着した産業でもあり、木質バイオマス発電は発生する温熱を利用した農業や温浴施設などへの利用も考えられ、雇用の確保など地域活性化に対しての貢献度も大きいと思われる。
エネルギー発生量では原子力発電所にまだまだ対抗できるようではないかもしれないが、これから人々の創意工夫によって伸びしろがある産業であることに変わりはなく今後期待が持てる分野だといえよう。
■ 最後にひっくり返すような懸念を書いて終わり
このように、日本の課題を可決するような林業の新しい話であるが、福島にもバイオマス発電所がある。当然地域の木材がチップ化されて燃料となるのだが、心配なのが原発事故の影響による灰やほこりを被った木材を燃やすことだ。木質バイオマス発電所は「灰」という廃棄物が出る。どうも残留放射能は残灰の中に濃縮されるとの指摘もあり、安心できない。
大震災の後(2011年)、秋田県にある能代バイオマス発電所は被災地支援の一環で岩手県奥州市の産廃業者の木質チップを購入して燃料にしたところ、その灰から10,000ベクレルを超える放射性セシウムが検出されたためその購入がストップされたことがあった。
ただ、被ばく線量が100msv以下なら健康には影響ないとされているので、チェルノブイリ事故の時相当量の灰が降り注いだと思われるのロシアのブリャンスク地方の木材の被ばくデータを調べてみたのだが、たとえばありえないけれども、白樺の皮を妊娠中の女性が毎日100gづつ1年間経口摂取したとしても赤ちゃんや健康に問題のあるような線量は出ていなかった。先述の1万ベクレルの灰も100gを1年間経口摂取した時の被ばく量は4.745msv(セシウム137の場合)である。ただ、ゼロではないため不気味さは残る。
福島ではきちんと計測されているのだろうか。ある反対派ホームページには、補助金が出ていることばかりが強調されていたが、灰の安全性について懸念があることについては何ら具体的なデータが示されていなかった。
怖がるのならば、きちんとデータを調べて根拠を示さないと、不安だけが増大されていくだろう。
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