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働き方改革法成立 ~日本の労働生産性は本当に上がるのか~

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 6月29日、働き方改革法が成立した。2016年8月に働き方改革相を任命して以来、すったもんだしてやっと決まった。決まった内容が新聞各紙報道によると次の通り。

 

 

残業時間の上限規制
・残業は年720時間まで。単月では100時間未満までに。
・違反すると懲役や罰金。
・労基署が指導する際、中小企業に配慮
→大企業2019年4月 中小企業2020年4月

同一労働同一賃金
・基本給や手当で正社員と非正規の不合理な待遇差を解消
→大企業2020年4月 中小企業2021年4月

脱時間給制度の導入
・年収1075万以上の一部専門職を労働時間規制から除外
・働いた時間ではなく成果で評価
・年104日以上の休日取得義務
・一度適用されても自分の意志で離脱可能
→19年4月

残業時間の上限規制や同一労働同一賃金などは、以前から言われてきていた方向性に毛が生えた程度のもので、「なーんだ」といっった程度の改革。改革とは言えないかもしれん。
物議をかもしたのは「脱時間給制度」。政府はこれで労働生産性を上げるといっているが、野党は、制限なしの残業を助長するものだといって大反対した。

実際、一度こういう法律ができれば対象範囲が次第に広がっていくのはこれまでの例を見ても十分に予想できることで、そのうち、数年あとには上から監視され、下から突き上げられる中間管理職くらいまで適用されはしないかと危惧される。特に、”自分はデキる”と思っている会社員にとっても脅威な話だ。

まさに「働かせ方改革」と揶揄されるゆえんである。

「自分の意志で離脱可能」って、会社員がそういう選択をするときはどんなときか考えてみるとよい。意味のない法律である。

ちょっとここで立ち止まって考えよう。

もともとは、少子高齢化の中、減っていく労働人口で生産性を上げなければならいところからきているはずだ。これでどうやって生産性をあげるというのだろうか。

たしかに、売り上げが減らないのだとすれば、労働時間が減れば生産性は上がる理屈だが、こんな内容ではたかが知れている。多くの会社ですでにクリアしているような内容ばかりではないだろうか。

まとめると、

できる人は無制限に死ぬほど働き、だらだらとただ会社にいて時間給を稼いでいるような人は時間短くしてくださいねと。

あー、なん短絡的効率的なんでしょうか。
これから人口が減っていくんだから根本的に変えないと無理だと思うのだが。

ところで、

低い労働生産性、OECD諸国で22位という結果に甘んじている日本だが、労働生産性の高い諸国に学ぼうとするといろんなことが見えてくる。隣の芝生は青く見えるというがそこには日本人独特の気質や労働慣行が大きく影を落としていることが見え隠れするのではないか。

ノルウェーの例が良く挙げられるの、でここで復習したい。

ノルウェーの労働生産性はOECD諸国で2位。ノルウェーの一日当たり労働時間を比較してみると日本が9.26時間、ノルウェーは9.02時間と、そこまで大差はない。

また、休日出勤については、日本は「ほぼなし」が75.6%、ノルウェーでは47.5%。休日出勤の平均日数を見てみると日本の平均が0.54日、ノルウェーでは1.48日と、なんとノルウェーの方が多いことが分かった。

おや、どうやらノルウェーの労働時間が特段短いということじゃないようだけどどういうことだろう。

では、制度面、就業規則面で見てみたらどうかということで、比較するとここに差があった。

日本ではほぼ半分以上、ほとんどといっていい65.5%の企業で、始業と終業の時間が決まっている。それに対し、ノルウェーはたったの17.5%。多くの企業が「フレックス」「フルフレックス」制度と取り入れていて、従業員の自己裁量で労働時間を決められるのだという。また、働く場所を問わないリモートワークも、日本の企業ではまだ20.9%しか認められていないのに対し、ノルウェーでは77.5%の企業で認められている。

これを活用すれば、例えば未就学児子育て中の人であれば、朝、保育園に預けたのち、8時に出勤。午前中、顧客との打合せなど済ませて、昼休憩を30分くらいに短くして資料作成などをし、16時には退社。家で家事一切を済ませ、子どもを寝かせたのち、ちょっとゆっくりして21時ごろから家で1時間くらいLINEなどで打合せ、メールのやり取りなどをして、そのまままたちょっとゆっくりしてから就寝ということができる。これで通算8時間働いたことになってるのだ。共稼ぎで夫婦の協力があって、夫もこのようなフレックスタイムを利用すれば、さらに家事は楽になり時間の余裕も生まれる。なによりだらだら残業をする暇と場所がない。

ずっと会社にいる必要はない。自分のライフスタイルに合わせる方が生産性は上がるというのは、実は証明されていることなのだ。

会社ではいろんな人が働いている。それぞれの家庭の事情は様々で、これまでのような「奥さんが専業主婦として家にいて、旦那は昼夜を分かたずに働きまくる」というようなスタイルは今通用しないことは頭ではわかっていても、企業も、行政も、学校も、教育委員会も、社会の制度全体が全く追い付いていない。人はだれでも、子育てしながら、介護しながら、あるいは自分が病気の治療をしながら働かないとならなくなる可能性があることを忘れてはならない。

一億総活躍社会に必要なのは、人生で様々な課題を抱える人たちに、ちゃんと働く選択肢を与えること。それにはその人たちのライフスタイルに合わせた働き方を提示できるかどうかなのではないか。

「時間で拘束」することにこだわる日本の行政や経営者、またそれに慣れてしまった労働者の「考え方改革」こそ必要なことなのかもしれない。

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