様々な議論を呼んでいる東京医科大学入試結果操作問題。
女性が合格しにくいようにしていた。
これはまずい。内容は以下の通り。
①一般入試の得点を、決まった計算式を使って加減し、女子合格者を抑制していた。
②操作は2006年から行われていた。
③その理由は、「年齢を重ねると結婚、出産などで長時間の勤務ができないなど、医師としての稼働が低下する」から。
この問題に関して、ネット上では様々な議論が沸き起こり、東京医大前で抗議行動が起こるなどの騒動に発展している。
合格ラインに達していた人を意図的に不合格にしていたということであって、公正な大学入試とは言えないのは明らか。しかしここまで開き直って理由を述べたのはなぜなのだろうと考えるとき、本来ならめちゃくちゃたたかれるであろうこの問題が、そこまで大きな批判に発展しない真相が浮き上がる。
医師というのは激務である。労働時間の適用を受けない。
ゆえに、過重労働になり毎年1000人近い医師が過労死、過労自殺しているという実態。
医師法によって応召義務が定められており、理由なく診察を拒むことができないがゆえ「医は仁術」として医師に人権を認めていないとすら批判されているこの事実をどうすればよいか。この問題に答えを出せないでいる社会がある現実。
おそらく大学病院でも深刻な医師の過重労働問題があったものと思われる。そこへ近年女子の合格者が増えてきたものだからこのような措置をとるに至ったのだろう。採用してから「子供を産むな」とは言えないからだ。しかし、最初から合格ラインの人を合格させないってのも「権利の制限」は同じことなのだが。
いずれにせよこの問題は奥が深く、単なる女性差別として片づけられる問題ではないことを言っておきたい。
もっとよく考えると、医師の世界だけではなく世の中のあらゆる雇用はこのような「権利の制限」が行われている。年齢や性別で差別してはいけないことになっている募集でも、企業が雇用契約を締結する「契約自由の原則」が「平等保障」より優先する現実がある。
「20歳代の女性活躍中!」などとうたった募集広告は、暗に20代の女性しか採用しませんということを言っているのとほぼ同じといえる。何らかの理由で働けなくなって、年齢40~50以上になってからの再就職しようと思っても困難なのは周知の事実。
企業も商売だから経営資源となる「ヒト」を吟味しなければならないのは当然。でも「ヒト」は「モノ」や「カネ」とは違う。そもそも、
「能力ある人がよい仕事をする」
面と同時に、
「良い仕事が人の能力を作る」
という面もあるのだから、企業は「ヒト」を育成する社会的責任があるということをしっかり認識するべきではないだろうか。
この世は生きている「ヒト」が暮らしてつくるものだから。
需要と供給の関係だけで「ヒト」をとらえて、「売り手市場・買い手市場」みたいなことを言っていると、東京医大で入試合格者コントロールをしたり、医師の問題のように著しい不均衡が生じる。「ヒト」は雇用されることなく職業能力を身に着けることはできないのだから、経営資源だというのなら育成すべきものなのではないか。
なんでも自己責任と市場原理で片付けようとする風潮に、「ヒト」の問題はなじまない。
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