2月16日に行われた閣議で、公的年金の受給開始を70歳を超えた時点も選択できるようにする方針を盛り込んだ高齢社会対策大綱を決定した。これを受けて、厚生労働省は2020年度中にも関連する法改正を目指して検討を始める。少子高齢化が進行する中、健康な高齢者にはもっと働いてもらわないとという考え方の様だ。
現在でも本人の申し出によって年金の受給開始年齢を伸ばす制度はある。昭和16年4月2日以降に生まれた人の場合に限れば、年金受給開始年齢を66歳以降にすることを所定の手続きにのっとって申し出た場合、増額率は(65歳到達月から繰下げ申出月の前月までの月数)×0.007、つまり0.7%ずつ増額される仕組みだ。此度の大綱ではこれを70歳以降にも選択肢を増やしてさらに上積みをしようという内容である。だが、これを利用する人はあまりいないという。
これら制度を積極的に利用しようという人はまず、65歳~70歳以降に雇用されている必要がある。2016年の60歳~64歳の雇用率は63.6%だったというが、その中身を見れば半分以上はパートなど非正規雇用である。総務省の統計によるとその理由のほとんどが「時間が自由に使えるから」というが、絶対そうではない。現場で働いている人の感覚では「企業がそうしたポストしか与えないからやむを得ず」というのが原因だ。総務省のアンケートにはその選択肢はないからこうした結果がでる。
日本ではほとんどの勤め先で定年とされてきた60歳という年齢到達時に手にしていた賃金の75%以下に下げられているのが普通だ。その75%に下がった部分については雇用保険から高年齢継続雇用給付金が支給される仕組みがあるから、ほとんどの人はそれを活用しながら60歳の時もらっていた賃金の75%の収入で継続雇用されるのが一般的だと思う。「在職をしている」ということと「高年齢継続雇用給付金を受給している」という理由で減らされるがこの間受給資格のある年代の人は年金をもらうこともできる。
こうして、給与賃金、高年齢継続雇用給付金、年金の3本だてて何とかこれまでとそう変わらないレベルで生計は立てられる仕組みになっていた。しかしご存知の通り年金の支給開始年齢はまもなく完全に65歳になるから3本だてはなくなって完全に2本立てとなる。
しかも高年齢雇用継続給付金は65歳に達した月までの時点で支給されなくなってしまうからそれ以降は減らされた賃金と年金だけで生活ということになる。これまで高年齢継続雇用給付金の受給を理由に減らされていた部分が解除されるから若干年金の支給金額は上がることになるが、65歳時点より収入はさらに減ることは必至だ。
もうひとつある。60歳以降だって健康保険は標準報酬月額に基づいて容赦なく差し引かれる。65歳までは厚生年金保険料、介護保険も引かれることを忘れてはいけない。
さあ、こうした現状のなかで年金受給開始年齢を70歳以降にしたいと言って申し出る人がどれほど出てくるだろうか?。格差社会の是正が進まない中でこうした虹色の未来を語ってばかりよいのか?
雇用保険の高年齢継続雇用給付金も当然70歳までにしないといけんのじゃないか。この話題はまだまったく出てこないが政府事務方はどのように考えているのだろう。
安部首相が延べる未来は遠くから見るとなんだか虹色に見えるが、近くで見るとほころびだらけのポンコツだ。60歳~70歳までの賃金が確保されるよう、格差社会の是正、高年齢者の職場の確保、介護予防等の健康寿命延長策、様々な施策の組み合わせをもって初めてこれらは可能となるだろう。低所得者は高所得者より健康寿命が短いというデータもある。低所得者を少なくすることが社会保障費の削減にもつながるのでないか。
適当な虹色の未来ばかり吹聴する首相にだまされて同調していてばかりではいけない。
コメント